市場メカニズムの国際動向
国際航空セクターにおける取組
CORSIA導入の背景
気候変動の緩和を目標とした国際航空分野における温室効果ガス(GHG)排出削減については、国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)によって、対策検討や国際的なルール作りが進められています。
2010年に開催されたICAO第37回総会においては「グローバル削減目標」として ①2050年まで年平均2%の燃費効率改善、②2020年以降、温室効果ガスの排出を増加させないこと(2020年以降のカーボンニュートラル成長)、更にこの目標達成に向けて、以下4つの対策(Basket of measures):(1)新技術の導入、(2)運航方式の改善、(3)代替燃料の活用に向けた取組、(4)経済的手法の検討推進していくことが決議されました。
今後、2020年以降のカーボンニュートラル成長を達成するためには(1)~(3)の対策だけでは不十分であり、対策実施による目標達成を補完するための制度として、2016年のICAO第39回総会では「市場メカニズムを活用した全世界的な排出削減制度(Global Market-Based Measures:GMBM)」の導入が決議されました。同決議ではGMBMの具体的な内容が定められ、「国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation:CORSIA)」という名称が付けられています。
CORSIAは2021年より運用が開始され、各運航会社は、定められたルールに沿って必要量の排出枠を購入し、オフセットする義務が課されることとなります。オフセットの義務については、制度の開始初期は国際航空において2020年より増加したCO2排出量について、各運航者の排出量に応じた割当が行われますが、2030年以降は段階的に各社のCO2排出削減量を反映した割当に移行していくことが予定されています。
国際航空部門におけるCO2排出状況及び対策
IPCCの第5次評価報告書によれば、国際及び国内航空が世界全体のCO2排出量に占める割合は約2%であり、その内の約1.3%が国際航空による排出となっています。ICAOの航空環境保全会議(Committee on Aviation Environmental Protection:CAEP)によれば、今後の国際航空の交通量の増加に伴い、対策が取られなかった場合、同部門のCO2排出量は2010年と比較して2040年までに2.8~3.9倍になると推計されています。
下図は、将来的なCO2排出量の増加及びCO2排出削減対策の実施による目標達成のイメージです。
(ICAO資料より)
実施スケジュール及び参加国
実施スケジュールと参加対象国
CORSIAは段階的に実施され、2021年~2026年(パイロットフェーズ:2021年~2023年:パイロットフェーズ、2024年~2026年:第1フェーズ)まではICAO加盟国は参加意思の表明により、自発的に参加することができます。2027年~2035年(第2フェーズ)までは後発開発途上国などの免除対象国を除いて、全てのICAO加盟国の参加を義務付けています。実施スケジュールと参加対象国の詳細は、国際民間航空条約附属書16の第3章よりご覧いただけます。
参加国リスト
2022年11月16日現在、118カ国がCORSIAへの参加意思を表明しています。ICAO理事会で承認された任意参加した国の一覧はこちらよりご覧いただけます。
規制対象となる飛行ルート
CORSIAでは制度に参加する国同士を結ぶ飛行ルートが規制対象となります。飛行ルートの発着地国の両方が制度に不参加の場合、もしくはどちらか一方のみ参加している場合については、規制の対象とはなりません。規制対象となる飛行ルートの詳細は、国際民間航空条約附属書16の第3章よりご覧いただけます。
オフセット量の算定及びMRVシステム
各航空運航会社のオフセット量の算定方法
制度の開始初期(2021年~2029年)は国際航空セクター全体のCO2排出量の伸び率について、各航空運航者の排出量に応じたオフセット義務量の割当が行われますが、2030年以降は、段階的に航空運航会社各社のCO2排出量の伸び率を反映した割当に移行していくことが予定されています。
パイロット フェーズ |
第1フェーズ | 第2フェーズ | ||
---|---|---|---|---|
2021~2023年 | 2024~2026年 | 2027~2029年 | 2030~2035年 | |
参加対象国 | ICAO加盟国は参加意思の表明により、自発的に参加することができます。 | 免除対象国※を除いて、全てのICAO加盟国の参加を義務付けています。 | ||
オフセット義務量 | 各国が以下どちらかの算定方式を選択する ①年間排出量×セクター成長係数 ②2020年の排出量×セクター成長係数 |
年間排出量×[(X-100%)×セクター成長係数+X%×個社の成長係数] | ||
ベースライン | 2019年のCO2排出量 | 2019年のCO2排出量の85% | ||
オフセット対象航路 | 任意に参加した国間の航路 | 任意に参加した国及び義務国(小規模排出国、後発開発途上国等を除く)間の航路 |
- ※後発開発途上国/小島嶼開発途上国/内陸開発途上国を除いて、当該国の2018年時点での有償トン・キロが0.5%以上であるか、CORSIA参加国を有償トン・キロの大きい順に並べ、累積シェアが90%に達するまでの国に対して参加が義務付けられています。
- ※セクター成長係数=対象となる飛行ルートにおける総年間CO2排出量-セクターベースライン排出量(2021-2032年におけるセクター成長係数の割合は100%、2033~2035年は85%と第41回総会で決議)
- ※個社の成長係数=対象となる飛行ルートにおける個社の年間CO2排出量-個社ベースライン排出量(2033~2035年におけるセクター成長係数の割合は15%と第41回総会で決議)
MRVシステム
MRVシステムはCORSIAへの参加/不参加に関わらず、国際線が運航されている全てのICAO加盟国を対象に2019年1月1日から運用が開始されました。MRVシステムは国際航空によるCO2排出データを収集し、ベースライン排出との比較を行うことを目的として、以下の3つの要素から構成されます。
- モニタリング:正確な燃料消費量のデータ収集とCO2排出量の算出
- 報告:収集データの運航会社から国への報告、国からICAOへの報告
- 検証:収集データの検証
MRVシステムを通じた報告を支援するため、CORSIA CO2推定・報告ツール(CERT)が作成されました。CORSIA CO2推定・報告ツール(CERT)は、航空機運航会社が自社のCO2排出量のモニタリングと報告を行うために使用することができます。標準化された排出量モニタリング計画および排出量報告書のテンプレートに入力することにより、航空機運航会社がモニタリングおよび報告要件を満たすことをサポートします。MRVシステムに関する詳細は、付属書16の第2章を、CORSIA CO2推定・報告ツール(CERT)に関する詳細は、こちらをご覧ください。
排出ユニットの要件
排出ユニット
各航空機運航会社は、義務付けられたオフセット量に対して、同量の排出ユニットを購入し、取消を行う必要があります。
具体的に使用可能となる排出ユニットの種類や基準(Emissions Unit Criteia:EUC)は表1にある通りです。これらは、理事会によって設置された技術諮問組織(TAB: technical advisory body)からの助言等を踏まえて作成されるCORSIA 文書「CORSIA Emissions Unit Eligibility Criteria」に従い、理事会が決定します。2022年3月時点までに決定された排出ユニットプログラムは表2にある通りです。最新のプログラムはこちらを参照ください。
表1 CORSIA 適格排出ユニットの審査基準
制度の設計要素 | クレジットの十全性に関する評価基準 |
---|---|
A1. 明確な方法論及びプロトコル並びにそれらの開発プロセス | B1. 追加的であること |
A2. スコープの検討 | B2. 現実的で信頼性のあるベースラインに基づくこと |
A3. オフセット・クレジットの発行及び取消の手続き | B3. 定量化され、算定・報告・検証が行われること |
A4. ユニットの特定及びトラッキング | B4. 明確で透明性のある一貫した管理(chain of custody)が行われること |
A5. ユニットの法的性質及び移転 | B5. 永続的な排出削減をもたらすこと |
A6. 妥当性確認及び検証の手続き | B6. リーケージ(プロジェクト実施に伴う他の場所での排出量の増加)に関する評価とその影響の緩和がなされること |
A7. プログラムのガバナンス | B7. 緩和義務に対して一度のみカウントされること |
A8. 透明性及び公衆参加に関する規定 | B8. いかなる危害も及ぼさないこと |
A9. セーフガードシステム | |
A10. 持続可能な開発に関する基準 | |
A11. 二重計上、二重発行及び二重主張の防止 |
出典 ICAO “CORSIA Emissions Unit Eligibility Criteria”
表2 決定された排出ユニットプログラム(2022年3月時点)
クレジット名 | 概要 |
---|---|
American Carbon Registry (ACR) | 米国で最初の自主的なGHG排出量登録簿として、1996年に設立されました。GHG排出量の登録簿の管理・運営、自主的な認証基準や方法論の作成を実施しています。 |
Architecture for REDD+ Transactions (ART) | 開発途上国の森林減少・劣化に由来する排出を削減することにより、クレジットを発行する仕組みです。 |
China GHG Voluntary Emission Reduction Program | 中国国家気候局(NDCR)によって2012年に設立され、2015年1月に正式なレジストリと取引が開始された自主的プログラムです。 |
Clean Development Mechanism (CDM) | 京都議定書における附属書Ⅰ国 (先進国)が投資国として関与し、GHG排出量の上限が設定されていない非附属書Ⅰ国(途上国)において排出削減プロジェクトを実施し、その結果生じた排出削減量に基づいてクレジット(CER)が発行される仕組みです。 |
Climate Action Reserve (CAR) | 2001年にカリフォルニア州が開始したオフセット・レジストリです。 |
Global Carbon Council (GCC) | GCCは、企業がCO2排出量を削減し、低炭素経路を採用することによってセクター経済の多様化を支援する自発的カーボンオフセットプログラムです。 |
The Gold Standard (GS) | CDMなど、炭素クレジットの質を保証する認証基準です。 |
Verified Carbon Standard (VCS) | 2005年に設立された自主的炭素市場に向けたクレジット認証スキームです。ルール・ガイドラインを提示した上で方法論やプロジェクトの承認、クレジットの発行を行っています。 |
CORSIA中央登録簿(CCR)
CORSIA中央登録簿(CCR)は通常電子的データベースの形態を取り、参加国及び運航者によるCORSIAの履行状況を把握するためにCO2排出量や排出権のデータを記録するものです。詳細ルールに関しては、登録簿の設置を支援するための指針及びガイダンスが採択されました。採択された文書は表3にある通りです。
CORSIAの実施要素
CORSIA(附属書16 — 環境保護, 第4巻— Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)は、SARPs(Standard and Recommended Practices)として、2018年6月に開催されたICAO理事会にて採択された。SARPsとは、ICAO理事会によって採択される世界的な統一ルールを指し、すべての締結国に原則的に適用される「標準」(Standards)とすべての締結国に統一的に適用されることが望ましい「勧告方式」(Recommended Practices)に分けられています。CORSIAの実施要素は5つの実施要素から構成されており、その仕組みやルールはICAO理事会が承認した14の制度文書に反映されています(詳細は下記の表3を参照)。これらのICAO文書は附属書16、第 4 巻で直接参照されており、CORSIA の実施に不可欠なものです。
表3 CORSIAの実施要素と関連するICAO文書
CORSIAの実施要素 | ICAO文書 |
---|---|
CORSIA States for Chapter 3 State Pairs | 1. CORSIA States for Chapter 3 State Pairs |
CORSIA CO2推定・報告ツール(CERT) | 2. ICAO CORSIA CO2 Estimation and Reporting Tool |
CORSIA対象燃料 |
|
CORSIA 適用排出ユニット | |
CORSIA中央登録簿(CCR) |