市場メカニズムの国際動向

REDD/REDD+

<目次>

REDD/REDD+の定義・背景

森林減少抑止による排出削減対策の重要性

森林は様々な生態系サービスを提供しており、気候変動対策の観点からは二酸化炭素を吸収し、炭素を蓄積するという重要な役割を果たしています。地球温暖化の進行に伴い、今後豪雨災害や猛暑のリスクが更に高まることが予想されている中、CO2排出と直接的につながっている森林減少についても、更なる取組が求められています。

2014年に発表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第5次報告書によると、世界の人為起源の温暖室効果ガス(GHG)排出量のうち、林業の森林伐採を含む「土地利用の変化によるCO2の排出量」は11%に相当します(2019年に発表されたIPCC土地関係特別報告書では13%に)。これはCO2の排出源としては、「化石燃料由来の排出(65%)」に次いで2番目に大きな値です。このことから森林伐採を阻止することが、短期的且つ直接的な気候変動緩和オプションであると言えます。

また、2015年に採択されたパリ協定においては、全ての締約国が、産業革命前からの平均気温の上昇を2℃より十分下方に保持し、1.5℃に抑える努力を追及すること、そのために人為的な排出と吸収を今世紀後半中にバランスさせることなどが謳われています。森林等の吸収源については、炭素の貯蔵庫としての機能を保全し強化するための行動の実施や、開発途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+)の実施および支援が求められているところです。

人為期限のGHGのガス種別年間総排出量(1970–2010)

出展:「IPCC 第5次評価報告書の概要-第3作業部会(気候変動緩和)-」を元に作成

REDD/REDD+とは

森林の減少は、人口の増加、食料や土地に対する需要の拡大等により、森林が伐採され、農地等に転用されることなどにより起きるとされています。大規模な森林減少が起こっているのは熱帯、とりわけ南米やアフリカですが、1990年代と比較すると、2010年から2015年までの5年間にかけてはこれらの地域における森林減少速度は大幅に低下しています。しかしながら、非持続的な森林施業、林地の転用が引き続き存在するなど、対処すべき課題が多く残されています。このような中、途上国の森林減少・劣化に対して様々な取り組みが進められています。

REDDは「Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation in Developing Countries(森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減)」の略称で、途上国での森林減少・劣化の抑制や森林保全による温室効果ガス排出量の減少に、資金などの経済的なインセンティブを付与することにより、排出削減を行おうとするものです。森林減少ないしは劣化の抑制を対象とするREDDに対し、森林減少・劣化の抑制に加え、森林保全、持続可能な森林経営および森林炭素蓄積の増加に関する取組を含む場合にはREDD+(REDDプラス)と呼ばれます。

REDD+は、2013年の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第19回締約国会議(COP19)において基本的な枠組みが決定されました。さらに2015年のCOP21で採択されたパリ協定の第5条2項にて、REDD+の実施と支援が奨励されました。
現在は様々なパイロットプロジェクトや途上国の能力開発支援が、先進国政府、国際機関、民間企業、NGOによって実施され、その経験を通じて、資金面や技術面での課題解決に向けて、詳細な議論が行われています。日本を含む先進国による二国間協力の枠組みを通じた支援に加え、下記の国際機関により、途上国のREDD+実施に向けた準備活動(能力向上、技術支援、REDD戦略と制度の策定)やパイロットプロジェクトの設計・実施支援が行われています。

  • 森林炭素パートナーシップ基金(Forest Carbon Partnership Facility:FCPF)
    世界銀行が管理する基金で、政府、ビジネス、市民社会および先住民族のグルーバルパートナーシップによりREDD+プロジェクトの支援を行っている。アフリカ、アジア、中南米、カリブ海の47の途上国が参加しており、REDD+の実施準備のための基金(FCPF準備基金)と森林およびより広義の土地利用部門における排出削減成果に基づき国へ支払いを行う基金(FCPF炭素基金)から成る。
  • UN-REDDプログラム
    国連食糧農業機関(FAO)、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画(UNEP)の共同の取り組み。アフリカ、アジア太平洋、ラテンアメリカにまたがる65の国で、国レベルで行われるREDD+プログラムの設計・実施支援を行っている。
  • 緑の気候基金(GCF)REDD+ Results-based Payments Pilot
    GCFはUNFCCCに基づく資金供与制度の運営を委託された基金で、認証機関と呼ばれるGCFへの資金アクセスが認められた国及び準国家の機関・地域機関・国際機関、民間機関を通して途上国への各種支援が行われている。REDD+については、準備活動の支援および削減成果に基づいて支払いが行われるREDD+成果払いパイロットプログラムが実施されている(日本からは、国際協力機構(JICA)と三菱UFJ銀行(MUFG)が認証機関として承認されている)。

REDD+の基本的な考え方は、過去の森林減少やそれに伴う排出量の推移などに基づき、「参照レベル」を設定し、この「参照レベル」(図 点線)を参考に、森林減少・劣化を抑制した場合(REDD+の取り組みを実施した場合)の排出量(同図 実線)を評価しようとするものです。

参照レベル:過去のトレンドなどから推定される森林減少・劣化による排出量

出典:『REDD-plus:森林減少・劣化の抑制等による温室効果ガス排出量の削減─開発途上国における森林保全』 国際協力機構(JICA)地球環境部/国際熱帯木材機関(ITTO), 2010を元に作成

REDD+については、主に(1)参照レベルの設定、(2)モニタリング手法の確立、(3)ガバナンス、先住民族や生物多様性への配慮などの課題が指摘されており(注1)、技術的な検討が進められているほか、VCS(Verified Carbon Standard:自主的炭素市場に向けたクレジット認証スキーム)やCCBスタンダードなど民間主導の自主的なガイドラインもいくつか作られています。

VCS:https://verra.org/project/vcs-program/
CCB:https://www.climate-standards.org/ccb-standards/

(このセクションは環境省の「フォレスト パートナーシップ プラットフォーム」の「REDD+」のページをもとに加筆・修正しました)

REDD/REDD+を巡るこれまでの経緯

<国際的な経緯>

会議名(場所) 動き
2005年 COP11
(モントリオール)
パプアニューギニア政府とコスタリカ政府により、途上国における森林減少の抑制による温室効果ガス排出の削減、および森林減少の抑制を通じた炭素クレジットの取得を提案。以後、SBSTA(Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice)において対応が検討。
2007年 COP13
(バリ)
バリ行動計画において「途上国における森林減少・劣化の抑制による温室効果ガス排出の削減」(REDD)が合意される。また森林保全、森林の持続可能な管理、森林炭素貯留量拡大の役割も要素に加えた概念(REDD+)へ拡大。
2008年 COP14
(ポズナン)
REDD+が国際的に認識される。
2009年 COP15
(コペンハーゲン)
「コペンハーゲン合意」においてREDD+の重要性と先進国からの資金調達を含む枠組みの早期創設が盛り込まれた。REDD+に関するガイダンスを決定。
2010年 COP16
(カンクン)
REDD+の5つの活動対象(①森林減少による排出削減、②森林劣化による排出削減、③森林炭素ストックの保全、④持続可能な森林管理、⑤森林炭素ストックの拡大)が決定。また開発途上国に対して国家戦略、森林参照レベル、森林モニタリングシステムおよびセーフガード(REDD+実施における負の影響の軽減)に関する情報提供システムの策定等に取り組むことを要請した。
2011年 COP17
(ダーバン)
セーフガード(REDD+実施における負の影響の軽減)に関する情報提供の指針および森林参照(排出)レベルに関する指針が決定。また開発途上国は多様な資金源(公的資金、民間資金、市場メカニズムおよび非市場メカニズム)を取りうること、また先進国の支援の枠組について検討を継続することが確認された。
ケニア 国際的な自主的な取り組みがスタート。ケニアのREDD+プロジェクトが世界で初めてVCS認証を受ける。
2012年 COP18
(ドーハ)
森林モニタリングシステムおよびMRV(測定・報告・検証)プロセスの検討は引き続き継続。結果に基づく完全実施のための資金オプションにおける作業計画に取り組むこと、REDD+資金供給改善のための作業プログラム(COP-WP)を実施することを決定。
2013年 COP19
(ワルシャワ)
国家森林モニタリングシステム、セーフガード、森林減少・劣化のドライバー、参照レベル、そしてMRVプロセスなどの方法論的な課題、およびREDD+の結果に基づく支払いや支援体制のコーディネーションを含む7つの決定文書「REDD+のためのワルシャワ枠組み」に合意。これにより、REDD+活動の実施に向けた枠組みやルールが定まった。
2014年 リマ 「REDD+支援の調整に関する自主的会合」がスタート。以降毎年1回のペースで開催
2015年 COP21
(パリ)
パリ協定採択。第5条2項にてREDD+の実施と支援を推奨。セーフガード情報の提供や非炭素便益に関する方法論的課題など、REDD+に関するCOP19での積み残し課題についても合意。
2017年 COP23/SBI47
(ボン)
実施に関する実施に補助機関第47回会合(SBI47)において、REDD+支援の調整に関する議論を実施。各国意見が収束せず、次回会合(SBI48)に結論先送り。
2018年 SBI48 実施に関する実施に補助機関第48回会合(SBI48)において、REDD+支援の調整に関し検討を終了することに合意。

出展:

<国内での経緯>

動き
2009年 経済産業省や環境省がREDD+に関する実現可能性調査を実施(11件)
2010年 REDD+に関する国内の総合的な技術拠点として、森林総合研究所にREDD研究開発センターが開設される
2010年 経済産業省がREDD+に関するJCM実現可能性調査を開始
2011年 環境省がREDD+に関するJCM実現可能性調査を開始
2015年~
2017年
環境省が「二国間クレジット制度(JCM)を利用したREDD+プロジェクト補助事業」を実施
2018年 日・カンボジアJCM合同委員会によりJCMの下でのREDD+実施ルールが採択(初めて採択されたJCM-REDD+の実施ルール)
2019年 日・ラオスJCM合同委員会によりJCMの下でのREDD+実施ルールが採択

出展:

JCMにおけるREDD+に関する取組

日本政府は、途上国への優れた低炭素技術等の普及や対策を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の削減目標の達成に活用するため、二国間クレジット(Joint Crediting Mechanism: JCM)を推進しています。

カンボジアおよびラオスでは、JCMの下、REDD+を推進するためのルールが整備されており、他の国でもこうしたルールの整備が相手国政府と協力しながら進められています。また、REDD+プロジェクトの組成・支援を目的として、「JCM-REDD+実証調査」(平成25年度~平成26年度)および「JCM REDD+プロジェクト補助事業」(平成27年度~平成29年度)が行われています。

代表的な事例

下記のWebサイトでもREDD+の事例が複数紹介されています。

また下記のデータベースでもREDD+の事例を検索することができます。

森林セクターと市場メカニズムの活用

京都議定書下では、附属書Ⅰ国(先進国)が投資国として関与し、GHG排出量の上限が設定されていない非附属書Ⅰ国(途上国)において排出削減プロジェクトを実施し、その結果生じた排出削減量に基づいてクレジット(CER)が発行される仕組みとして、クリーン開発メカニズム(CDM)が作られました。森林に関する取組も対象分野となっていますが、産業分野と比べて複雑な仕組みになっています。

2020年から本格的な運用が始まったパリ協定においては、第6条において市場メカニズムの活用が位置付けられており、引き続き実施ルールの交渉が続けられています。

パリ協定第6条の解説

また、国際航空セクターにおいては、2020年以降のカーボンニュートラル成長が目標として掲げられており、森林セクターの取り組みによるオフセットについて関心が寄せられています。

国際航空セクターにおける取組

さらに、上記のような国際的枠組みに基づく取組以外にも、Verified Carbon Standard(VCS)など民間セクターの国際的な認証スキームにおいて、REDD+プロジェクトからのクレジットの利用の検討が始まっています。